児童精神科医高岡健の映画評論

児童精神科医の高岡健さんが、子どもや家族を描いた映画について、語ります。

見ごたえのある御当地ドキュメンタリー:「おらが村のツチノコ騒動記」

Vol.97 更新:2024年7月22日

▼御当地映画と呼ばれるジャンルの中にも佳作が含まれていることは体験的に知っていたが、御当地ドキュメンタリーとでもいうべきものにも見ごたえのある作品がある。美濃白川茶で知られる岐阜県東白川村は、ツチノコでも有名だ。(もっとも、同県に住みながら、私は行ったことがない。)同村は、映画「おらが村のツチノコ騒動記」の今井友樹監督の出身地だという。そのつもりで聞けば、監督自身のナレーションには、地元のイントネーションが混じっているようにも聞こえる。そこに監督の父親、親戚、教師、同級生、住民、元役場広報担当者、元村長、現村長らの言葉が共振する。

▼この映画に登場する伊藤龍平(民俗学)によると、ツチノコは、もともとは妖怪として認識されていたものが、次第に未確認動物へと変化していったのだという。同じく映画の中で、未確認動物UMA(ユーマ)という和製英語の名付け親(考案者は別にいて「有名な書店の店長であり批評家で作家でもあった人」だと語られる=おそらくそれはSFマガジンの当時の編集長であろう・高岡註)である實吉達郎は、ツチノコについて「つまんなかったねえ、ミミズみたいなもんです。」と笑う。ちなみに、かつて私は「U.M.A.レイクプラシッド」という巨大ワニが出現するパニック映画を観て、阿呆らしくて苦笑するしかなかったことを覚えているが、「ミミズみたい」とは逆に微笑ましくていい表現だと思う。

▼「ミミズみたい」かどうかはともかく、妖怪がUMAに変わるプロセスは、伝説の中の霊性が減じ娯楽性が増していくことを意味する。かつて東白川村ではツチノコを「ツチヘンビ」と呼んでいた時代があり、それを目撃したと口にすることは長くタブーとされてきた。ところが、現在はツチノコに懸賞金が掛けられ、捕獲作戦のイベントに大勢が参加する。同時に、それは科学談義を愉しめるようになったことでもある。この映画の中では、ヒキガエルを呑んだヤマカガシがツチノコの正体だと解説する研究者に対し、別の研究者はマムシのほうがツチノコに近いと述べる。一方、小学4年生時に目撃したことのある住民は、ヤマカガシは何度も見たことがあるが、それとは違うと語る。また、アオジタトカゲ説を紹介する飼育員もいる――。

▼ところで、東白川村以外にもツチノコの目撃談が各地で語られていることを、私はこの映画で初めて知った。奈良県下北山村、広島県府中市、糸魚川市、中でも岡山県吉井町には好感を抱いた。死骸を診療所へ持ち込んでレントゲン写真を撮り、そのあとホルマリン漬けにして川崎医大へ持ち込んだら、学生が骨を拾って組み立ててくれた。そして、建設用ダクトとコーンと発泡スチロールで長崎の蛇踊りのようなものをこしらえたという。

▼こう書いてくると思わず熱がこもってくる。途切れることのないツチノコへの人々の関心には根拠がある。そこをうまく捌いて出来あがった映画だと思う。安易にエコロジーに流れず、その手前で踏みとどまった点も良かった。