理事長より・講演情報

子どもや若者に寄り添い、子どもや若者が地域で安心して暮らすことができる社会の実現を目指し、活動しています。

ご挨拶

 ロシアのウクライナ侵攻から1年3か月、この間に世界中の様々な地域で争いが頻発し、多くの無辜の命が奪われています。世界は残念ながら支配者の権力に左右されて、人々の希望や生活は踏みにじられたまま推移しています。
 2023年度を迎え、日常生活が送れていることの有難さをかみしめています。
 1昨年度実施した東京都全自治体対象の調査研究「東京都における養育支援訪問事業の改善のための調査研究」〜児童虐待からの回復に向けた支援の方向性に焦点をあてて〜の報告書(作成2022年3月)を基に、結果から見えて来た問題点を打開していくために、5月に東京都へ、7月に厚労省へ、報告に行きました。また、12月には、日本子ども虐待防止学会の福岡の学術集会に報告に行って来ました。
 2024年度から本格実施の子育て世帯訪問支援事業(先行事業が養育支援訪問事業の育児・家事援助)の実施に向けて、厚労省・内閣府に多様性と質の高い支援の提供を求めて、3NPO法人(バディーチーム、ホームスタート・ジャパン、当協会)は、昨年10月に緊急要望書を提出して来ました(当協会コラム10月19日 参照)。この3NPO法人は、子どもたちが安心・安定して生きて行けるように、今後の育児・家事援助訪問の課題抽出や改善のために活動して行くことを2023年度も確認しています。
 また今年度は、再び日本財団の助成金が通りましたので、今回は全国の自治体を対象(前回は東京都のみ)に西郷先生とアンケート調査・インタビュー調査を開始致しました。
 不登校・ひきこもり事業であるユースワーカー訪問事業は、協会を立ち上げた2000年からご本人が希望した時にユースワーカーが訪問して寄り添う活動を実施しています。東京都社会参加等応援事業の民間支援団体としても登録しています。この20年間、東京都はずっと就業のための自立支援を第一の目標に掲げて来ましたが、ようやくこの4月から、ご本人・ご家族の尊厳と自己肯定感の回復が第一の目標であると大きく転換しました。当協会は最初からご本人に自己尊重感が根づくことを目標として、現在も支援を続けています。
 今年度も少年事件の立ち直り支援を継続していきます。
 昨年の子どもの自殺者数は514人と過去最多です。子ども・若者の生きづらさはずっと以前から深刻で、親に隠れての自傷行為が激増しています。今年の3月埼玉戸田市で高校2年生が「誰でもよかった」と、中学校舎で教員を切りつける事件が起きました。協会ホームページにコラム「生きづらさを抱えた子どもたち」を3月に書きましたら、「日本子どもを守る会」の月刊誌5月号にそのまま掲載されましたので、その一部分をここに写したいと思います。
 「今の時代、声を上げずに自らを追いつめている子どもたちの状況は第一段階です。」彼らは家族の中で孤立しているだけでなく、「頑張れない自分を自ら責め続けています。自らを追いつめた果ては自死に向かいます。或いは、さらに追いつめられ続けると、今度は自己にではなく他者に攻撃欲求が向かい、その結果、他害、即ち他者への無差別殺害欲求が高まって行くのです。」「自傷他害に子どもを追い詰めないためには休息すること、即ちこもることがどれだけ大切なことかと思います。にもかかわらず、こもることについては多くの人が否定的です。」もし、「傍らで誰か受けとめてくれる大人が登場して精神的に回復するまで関り続けてくれたら、子どもは初めて安心して生きていくことが出来る」でしょう。この子どもに寄り添い関り続けてくれる家族以外の大人こそが、育児・家事援助をしながら子どもを精神的に支える訪問支援者です。回復には最低でも1〜2年は掛かりますが、この訪問支援者こそが生きづらさを抱えた子どもたちの救世主となること、そして回復にはたくさんの時間とお金がかかることを子ども家庭庁・都道府県・市区町村はしっかり認識してほしいです。
 2008年6月秋葉原無差別事件で17人が殺傷され、加藤智大死刑囚は昨年刑が執行されました。彼は子ども時代、雪の中の戸外に全裸で出され、風呂桶に沈められ、ぐるぐる巻きで屋根裏に放置されたとの記録を読んだ記憶があります。しかしながら彼は行政から一度も守られることなく、自らこもることなく、そして虐待の母親への行政の支援もなく、親子ともに放置された結果、成人後に彼が起こした事件です。子ども時代の彼に対して行政や大人が何もしなかったこと・出来なかったことを自治体・行政が自分ごととして真摯に振り返り、今後の行政の進むべき道・改めるべき法律・見直すべき事業について、何処かで本気で検討されたことがあったでしょうか。子ども時代に受けた傷は子ども時代のうちに癒されなければ、思春期・成人期に自傷他害として事件は今後も起こり続けるでしょう。
 2024年度から「養育支援訪問事業の育児・家事援助」は「子育て世帯訪問支援事業」の名称となります。当協会は20年間、家庭を訪問して育児・家事援助を通した子どもの精神的回復に邁進しています。協会の現在の運営状況はとても厳しいですが、死に急ぐ子どもたちをどうしたら止めて行けるかを考えつつ、今後も協会の活動を継続して行きます。

2023年6月

特定非営利活動法人日本子どもソーシャルワーク協会
理事長 寺出壽美子

理事長 講演情報

当協会の理事長は、皆様からのご依頼を受けての講演・研修活動も行っております。 講師のご依頼は「講師依頼」ボタンをクリックして表示される画面を印刷し、必要事項をご記入の上、当協会までご連絡ください。

理事長講演とは別に、協会ではさまざまな講座やシンポジウムなども開催しています。詳しくは、講座・シンポジウムをご覧ください。

理事長 コラム

当協会の理事長によるコラム記事を掲載しています。

  • 理事長コラム

  • <最新記事>

    ▼厚労省・内閣府に子育て世帯訪問支援事業の実施に関する緊急要望書を提出(2022年10月19日)→こちら
    ▼選挙中に凶弾に倒れた元総理の事件等から見えてくること(2022年10月17日)→こちら

理事長

理事長 寺出 壽美子
プロフィール

  • ソーシャルワーカー NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会理事長
  • 日本子ども虐待防止学会会員
  • 日本子ども学会会員
  • 東京都子供・若者支援協議会代表者会議委員
  • 世田谷区子ども・若者支援協議会代表者会議委員
  • 公益財団法人東京YWCA理事
  • 元法務省若年受刑者処遇に関する勉強会委員
  • 元東京都次世代育成支援行動計画懇談会委員
  • 元東邦大学薬学部非常勤講師
  • 元ぽーと金が谷児童養護施設長
  • 社会福祉士

1970年、慶應義塾大学文学部社会心理教育学科卒業。
高校の教員、子どもの本屋店長、不登校児童も含めた学習塾代表等を歴任。
虐待、いじめ、不登校・ひきこもり、家庭内暴力、 薬物、少年事件など、多岐にわたる子ども・若者とその親への面接相談や、支援に従事。不登校・ひきこもり等の子ども・若者への「ユースワーカー」派遣や子ども・親を支える「ケアワーカー」派遣、少年事件の少年の立ち直り支援を担当。

<共著>
「家庭訪問型子育て支援ハンドブック」(明石書店)(2013年12月発売)
「養育事典」(明石書店)(2014年7月発売)
「いじめ、いま親にできること」(木馬書館)

<調査研究>
「子育て世帯訪問支援事業(新規事業)の今後の制度設計・改善のための調査研究」〜先行事業の養育支援訪問事業の課題抽出を通して〜(2023年度日本財団助成研究全国調査)
「東京都における養育支援訪問事業の改善課題に関する調査研究〜児童虐待からの回復に向けた支援の方向性に焦点を当てて〜」(2021年)
「ひとり親家庭ホームヘルプサービス事業に関する支援状況の調査報告書」(2006年)