理事長より・講演情報

子どもや若者に寄り添い、子どもや若者が地域で安心して暮らすことができる社会の実現を目指し、活動しています。

ご挨拶

 2018年3月目黒で5歳女児虐待死事件、2019年1月野田市で小4女児虐待死事件と痛ましい事件が続いています。5月には川崎市で小学生の列に刃物で切り付け、20人の死傷者が出ました。また、1昨年の20歳未満の若者の自殺者数は567人で、主要7か国の中で若者世代の自殺者が一位なのは日本だけです。これらの事象から、現代の日本社会が抱えている諸問題が見えてきています。
 協会のHPのコラム欄に、今年「少年法18歳年齢引下げに反対」「5月の川崎事件から考える」「児童虐待を未然に防ぐには」のコラムを立ち上げていますので、読んでいただけたら嬉しいです。
 虐待予防の目的で世田谷区の養育支援訪問事業を受託したのは2003年です。目黒区の子育てパートナー派遣事業は2015年から受託しています。これらの事業がさまざまな困難や不安を抱えている家族の中で生活している子どもたちにとってどれだけ日々の安心を獲得出来て、どれだけ生きていく上での礎になっているかを考えますと、日本全国の予算が手薄な自治体においてもこの家庭訪問型の養育支援事業を是非開始してほしいですし、すでに開始している自治体は支援の内容や期間を精査して本腰を入れて実施していってほしいと願っています。何故なら、児童虐待予防の政策としてこれ程内容の濃い支援はないからです。子どもにとってひとりになれる空間の中で、子どもとの関係性が築けているワーカーに日頃の不安を受けとめてもらえることは、何にもまして安心感が得られ、結果として子どもが生きていく上での原点である「存在感覚」を子どもの内部に根づかせていくことが出来るからです。
 幼児期や小学生の時期に、どのような家庭環境、どのような親子関係の中で育ってきたかは、実は、その後の子どもの人生に大きな影響を及ぼします。10代に問題化して来る不登校・いじめ・少年事件は、児童虐待とどれも通底しています。シングルマザー・シングルファザー・両親とどのような家族構成であったとしても、その中で子どもは安心して安定して生きていく権利をもっているはずです。しかしながら、さまざまな事情の中で、子どもは不安を抱き続けながら生活しているのが実情です。もちろん、保育園の待機児童の解消は待ったなしに進めて行ってほしい政策ですが、待機児童の問題ばかりが注目を集めて、家族の中で声を上げられずに不安と絶望の淵にいる子どもたちが大勢いるという現実に、政治家や自治体関係者は目を背けないでいただきたいと願っています。日々の生活の中で子どもが養育支援を受けて「存在感覚」が根づいていけば、ひいては、いじめの加害者・被害者や、少年事件の加害者・被害者に子どもを追い詰めて行かずに済みますし、不登校・ひきこもりの防波堤になっていくかもしれません。現状は、いじめや少年事件、ひきこもりが起きてから、その立ち直りに膨大な予算と時間を掛けています。幼少期から養育支援を手厚く実施することで、少年院や鑑別所等に掛ける費用や、ひきこもり者の就労等に掛ける費用を大幅に削減することが出来ますし、いじめや少年事件、ひきこもった本人にとって、辛い子ども・若者時代を送らなくて済むことになるのです。なかなか家庭の中のことは、外からは見えにくいものですが、家庭の場で支援を必要としている子どもたちが貧困の深刻化と共に、実は想像以上に多くなっているのが実感です。社会的養護にまで進まない段階で、自治体が手厚い支援の手を差し伸べることは、日本国の将来に掛かる喫緊の課題ですし、予算化の最優先項目だと私は考えています。
 2015年より東京都の若者社会参加応援事業の登録団体として、協会は本人が希望すればユースワーカーを家庭に訪問する事業を実施しています(事業自体は2000年より実施)。行政は本人と親御さんが共に高齢化してきたことに伴い、近年、予算を増額してさまざまな対策を講じてきているようです。昨年にも書きましたが、ひきこもりに対する根本的な考え方、即ち、人間は二重存在(『「ある」は、「する」に先行する』D.ウイニコット)であり、本人が社会に出たいと思っていない時に無理やり引きずり出すことは却って本人の傷を拡げるだけですし、親子関係の悪化をさらに招くだけだと考えています。人間は関係性の中で生きている訳ですから、動かない本人だけを問題視するのではなく、親自身が生きる姿勢を振り返ってみる努力、親子の関係性の見直しや適度な距離の取り方、親自身の幸せな生き方の模索等を親自身が着手し始めることこそが大切な視点だと考えます。親の方が関係性を変えていく努力をしていることが伝わることで、本人も内部の枯渇したエネルギーを充電し自己癒しが進んで、やがて自らの道を歩み始めることが出来て行くのだと思います。従って、今日のひきこもり対策の多くが単に就労支援に繋げて行こうとか、こもっている場所を施設に移してプログラムに載せていこうという対策では人間存在を「する」側面でしか理解していないために、こもった本人をさらに苦しめてしまう結果を生み出しています。最近の行政では、早い時期からひきこもり本人に対して関わり始めないと8050問題を生み出してしまうと表層の問題に焦点をあてて危機感を煽っているように見えますが、ひきこもっている本人に対して同じ家族の一員であると温かい思いで互いが支え合っていける関係に家族の一人ひとりが修復していこうと気遣えることが出発点であると思います。ともすると、親は自分も家族の一員であるという立場を忘れて、第三者の立ち位置から本人を評価するという構図を作ってしまっているようにみえます。行政で実施しているひきこもり施策は、一度根本的に検証し直してみる時期に来ているのではないでしょうか。
 最後に、一昨年度から協会独自に非行少年立ち直り支援を開始していますが、東京都の委託事業で実施していた9年間の少年事件立ち直り支援の現場で見えてきたことは、少年自身に問題があったが故に少年事件を起こして来たのではない、ということを再確認出来たことでした。少年は生まれてから過ごしている家族、学校、友人、地域のさまざまな網の目の中で、育み、育まれて成長しています。親の価値観や学校教育、友だち関係から大きな影響を受けていますし、可塑性も十分に備えています。従って、家族が変容することで少年も変わって行きます。また、地域を変えることで新たな人々との出会いと新たな人々から受けとめられる体験で少年は変わって行きます。少年事件を起こした少年は、その他の少年とは異なる「特別の」少年ではないということを私はこの事業を通して再確認させてもらいました。
 私がこの9年間に出会った家庭裁判所の調査官、鑑別所の技官、付添人、少年院の教官、保護観察官、児童福祉士の皆さんは、お一人おひとり全力を尽くして少年の立ち直りに向き合っていらっしゃいました。そして、ソーシャルワーカーに対してソーシャルワーカーが担う役割への期待と信頼を彼らから感じて活動することが出来て、まさしく多機関、多職種の協働を実感致しました。そして、今後益々、少年の立ち直りにおいては、ソーシャルワーカーが担うべき役割は増していくだろうと考えています。
 具体的には、逮捕後の留置所・鑑別所での少年との出会いが特に大切です。鑑別所や少年院の空間の中で自分を見つめ直し自分自身との対話に終始することで、今まで生きてきた自身の人生を振り返るという時期に少年と出会えることがソーシャルワーカーには大切です。少年は、今までの親子関係、仲間関係、今後の進路を熟慮していく中で自ずとどうして行かなければならないか、どうして行きたいかが見えて来るのです。審判に向けては、少年との話し合いの中で家裁へ提出の意見書も出来上がって行きます。審判時に意見を述べることも増えて来ました。という訳で、ソーシャルワーカーは少年と共に歩んでいくことが出来て、結果として少年の立ち直り支援のお手伝いに関われるのだと思います。現在、法制審議会において少年法の適用年齢引下げが審議されていますが、年齢引下げには強く反対致します(HPコラム参照)。
 以上、小学生頃までの子どもの生活の場で関わる養育支援訪問事業がその後の子どもが生きていく上での礎を根づかせる根幹の事業であり、子どもは社会が責任をもって育んでいかなければならないと考えています。各自治体で実施している養育支援訪問事業の実態調査を寄付金や助成金を得て今年度に開始出来ればと考えています。

2019年6月

特定非営利活動法人
日本子どもソーシャルワーク協会
理事長 寺出壽美子

理事長 講演情報

当協会の理事長は、皆様からのご依頼を受けての講演・研修活動も行っております。 講師のご依頼は「講師依頼」ボタンをクリックして表示される画面を印刷し、必要事項をご記入の上、当協会までご連絡ください。

理事長講演とは別に、協会ではさまざまな講座やシンポジウムなども開催しています。詳しくは、講座・シンポジウムをご覧ください。

理事長

理事長 寺出 壽美子
プロフィール

  • ソーシャルワーカー NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会理事長
  • 日本子ども虐待防止学会会員
  • 東京都子供・若者支援協議会代表者会議委員
  • 世田谷区子ども・若者支援協議会代表者会議委員
  • 前東京都次世代育成支援行動計画懇談会委員
  • 前東邦大学薬学部非常勤講師
  • 前児童養護施設施設長
  • 元府中市と新宿区の子ども家庭支援センタースーパーバイザー

1970年、慶應義塾大学文学部社会心理教育学科卒業。
高校の教員、子どもの本屋店長、不登校児童も含めた学習塾代表等を歴任。
虐待、いじめ、不登校・ひきこもり、家庭内暴力、 薬物、少年事件、嗜癖、摂食障がいなど、多岐にわたる子どもとその親への面接相談や、支援に関わっている。不登校・ひきこもり等の子ども・若者への「ユースワーカー」派遣や子ども・親を支える「ケアワーカー」派遣、少年事件の少年への支援を担当。社会福祉士。

<共著>
「家庭訪問型子育て支援ハンドブック」(明石書店)
「養育事典」(明石書店)(2014年7月発売)
「いじめ、いま親にできること」(木馬書館)

<調査研究>
「ひとり親家庭ホームヘルプサービス事業に関する支援状況の調査報告書」(2006)