理事長より・講演情報

子どもや若者に寄り添い、子どもや若者が地域で安心して暮らすことができる社会の実現を目指し、活動しています。

ご挨拶

2000年の立ち上げから既に16年が経過していますが、益々多方面の相談が毎日入ってきている状況に、日本の社会の中で、大人も子どもも年々生き辛さを増しているという実感をさらに強くしています。
協会では、児童虐待予防の一環として、世田谷区の養育支援等ホームヘルパー派遣事業(2003年〜)や、目黒区の子育てパートナー派遣事業(2015年〜)の委託を受けて、家庭の場に入って子どもたちの夕食の調理や、お風呂の準備、宿題を見たりしています。子どもの貧困率が年々増加する中で、民間の子ども食堂や学習支援の体制が少しずつ整備されてきて、わずかずつでも日々の安心感が増えていることに安堵しています。けれども、行政はそのことにあぐらをかかずに、食事を各家庭で用意できる養育支援訪問事業を全国の市町村の子ども家庭相談機関は、さらに積極的に展開していって欲しいと願っています。
また、2015年から東京都の若者社会参加応援事業の登録団体にもなっている、不登校・ひきこもり・自閉症スペクトラム等への支援「ユースワーカー派遣」については、最近、ようやくひきこもっている本人を無理やり引きずり出しても問題は解決しない、むしろ親子関係を悪化させるという考え方が、徐々に浸透してきていることは喜ばしいことだと感じています。本質は人間存在の二重性(「ある」と「する」)にありますが、方法論としては、親自身が生きる姿勢を変えていく努力、親子の関係性を構築し直す努力、適度な距離を保っていく努力、すなわち、親自身が親自身の人生を自身のしあわせ追求に切り替えていくことで、こもっている若者自身も、自己癒しと自己の立て直しをはかれるようになり、自らの人生を再スタートさせることができるのではないかと考えています。
また、2008年から東京都の委託を受けて開始している非行少年等立ち直り支援ワンストップセンターぴあすぽ事業の相談内容は増々深刻化しています。親御さん、弁護士さんからの依頼を受けて、留置所、鑑別所で少年との面会から支援が開始する場合には、ぴあすぽでどのような支援が今後できるかを、少年の意向や想いを確認した上で、審判に向けて意見書を作成して弁護士から家裁に提出しています。審判に出席して意見を陳述する場合もあります。従って保護観察ですぐに支援が開始される時と、少年院の退院後から支援が開始される場合とがありますが、少年院入院中に手紙や面会を通して少年との関係性を深めておくことは、その後の支援にとても大切なことだと思います。退院後の帰住先が自宅ではない場合には、帰住先を探すこともぴあすぽの大切な仕事です。少年院退院後の帰住先は少年のその後の生活の安定と深く関わっています。保護者の家庭や地域に戻ることが、却って少年の再犯につながっている場合もあり、少年院と家庭との橋渡し役としての自立援助ホームの存在意義は、もっと高く評価されても良いのではと感じています。そのためには大幅な自立援助ホームの増設が必要です。その場合、最近増えているかもしれませんが、高校への通学ができる自立援助ホームを増やしていくことも大切なことだと思います。
また、少年事件の少年や不登校ひきこもりの若者たちと多く接して来て感じることは、自閉症スペクトラム、AD/HDと診断はされていなくても、それらの特性・傾向を持っているのではないかと感じられる人々と多く出会うことです(これは、似た傾向・特色があると述べているだけで、自閉症スペクトラム等の人が増加していると主張しているわけではありません)。人間の原基は自閉症スペクトラムにあると語っている児童精神科医もいますので、当然のことなのかもしれません。それでも、これだけ多く目に触れるようになった背景には、2000年前後から自閉症スペクトラムやAD/HDの定義が、さまざまな事件を通して誤解も含めて浸透してきていることと、もう1つは社会の生きにくさが、そうした特性を持った子どもを例えば特別支援学級に入級させるべきという、同調圧力の中で異質なものを排除していこうという現象だとも感じられます。以前は、教室内で少し変わっている子どもを友達も先生もクラスの仲間として受け入れて来ていましたが、現在は、排除していく方向にはっきり舵が切られたのではないでしょうか。
もう1つの問題は、背景に児童虐待があることも含めて、際立って特性が顕著であるにも関わらず、背景の児童虐待やその子どもの持つ特性を配慮せず、親や先生が厳しくしつけ糺していくことが正しい対応という風潮があるということです。そうした子どもは自己肯定感を育めず、生きる自信を失い、あるいはいじめを受け続けるという悪循環の中で、親からも見捨てられ愛されていないと思いこんでしまっています。自閉症スペクトラムやAD/HDが少年事件をひき起こしているわけではありませんが、周りの人々の無理解の中で受けとめられて来なかった若者や少年は、ひきこもりや少年事件を引き起こしやすくなっているように思えるのです。ある小学校の担任は、「発達障害のことは専門ではないのでわかりません」と母親に公言する一方、朝、子どもが学校にどうしても行けないと家の中で暴れているので欠席の連絡を入れると、「他の子どもからバカにされたくらいで学校に来れなかったら、いったい社会に出てどうするのですか!今から迎えに行きます」と説教してきたと、母親は泣いて電話してきました。これは自閉症スペクトラムの子であるないに関わらず、こうした対応しかできない教員がいるという現実を変えていく必要があるのではないかと思います。子ども・若者に専門的に関わる全ての大人(教員・学校・保育園・幼稚園・児童館・学童・鑑別所・児童自立支援施設・少年院・保護観察所・児童相談所・一時保護所・家庭裁判所・乳児院・児童養護施設・自立援助ホーム…)は、自閉症スペクトラムやAD/HDの定義・特徴・対応を事前に学んでおくこと、特にそれらが不登校ひきこもり、少年事件を引き起こす原因ではないこと、何が不登校ひきこもり、少年事件を誘発させるのか等、徹底して学んでから職について欲しいと思います。
また、少年院の少年は、背景に児童虐待が75%あるというデータもあります。少年院での個別処遇プログラムでは特にその少年の特性の把握を入院時に丁寧にしていただきたいし、その前段階の鑑別所では、心理技官が必要と判断した時には、児童精神科医の丁寧な診察と今後のアドバイスを必須とすることを制度化して欲しいです。どういう処遇が求められるかという時には、正式な診断名が大切な時もありますし、診断名よりもひとり一人の固有な特性を把握しておくことが大切な現場もあるでしょう。いずれにしても、一人ひとりを尊重して大切に関わることが様々なプログラムの基底に存在すると思います。子どものいる現場では、自分はこの人に受けとめられているんだという実感を是非その子ども(若者・少年)に持たせてほしいと切に願っています。
また、毎年私は自治体の中において、中学生自身が相談できる窓口の設置と中学生が短期間生活できるシェルターの設置を要望してきましたが、行政に求め続けても何十年先まで困難かなと考えるようになってきました。それよりも中学生自身が希望申請すれば入れる民間のグループホームの方が早く実現すると気がつきました。現在の自立援助ホームを拡張して、中学生対象の自立援助ホーム(児童相談所や子ども家庭相談機関の管轄で)を作っていくことが早道です。今、中学1年〜高校1年相当の子どもたちが親子の確執ゆえに、深夜徘徊や家出を繰り返し、夜の仕事に声をかけられたり、薬に手を出したり、結果として犯罪の被害者・加害者になってしまう現実と私は直面しています。だいぶ以前に読んだ原ひろ子の『文化人類学』の中に、移動生活をしているヘア・インディアンは、十代になって親子関係がまずくなると、血縁関係のない隣のテントで生活を開始することを親も隣のテントの住民もおおらかに許容していて、さらに驚くことに移動するときに親とではなく、隣のテントの家族と一緒に移動してしまうこともOKな社会だということに、初めて読んだ時に感動したことを今でも鮮明に覚えています。一番親子関係が難しくなる13〜16歳頃には、親元ではなく、本人が申請すれば自立援助ホームで生活することができて、そこから中学高校にも通学できれば、少年事件は、かなり減少するのではないかと思います。そのためには日本中にたくさんの種類の豊富な自立援助ホームができないかなと夢想しています。各地の篤志家が地域で家を提供してくれて、国は子どもの福祉予算を組んで、中学生対象の自立援助ホームが開始されれば、少年事件数が減少して、鑑別所・少年院・保護観察所の費用も減らすことができるでしょう。その費用を、少年事件を起こす前の予算として充当してほしいと願っています。
今、貧困の子どもの増加に対して、貧困によって被る子どもの不利益を減らすための施策が検討され始めています。現場のソーシャルワーカーとしては、親の年間収入が一定以下の場合の保育園の無償化については、その枠をさらに拡大させていってほしいと願っています。同じく、親の収入が少ないために大学進学を諦めざるを得ない若者に対しては、まずは親の収入が一定以下の場合には、大学・専門学校の学費を無償にするか、給付型奨学金を支給するか、いずれにしても、立法化を進めていくことは急務だと思います。給付型奨学金の設立については、ようやく、政府を動かして実現を目指そうという動きが今、出てきているところです。
最後に今の日本の状況だからこそ、戦争と児童虐待の関連について訴えたいと思います。昨年5月に防衛省が特別措置法に基づき、イラク・インド洋に派遣された自衛官のうち54名もの自衛官が自殺しているとの発表がありました。戦争とPTSDの関係が明らかにされたのは、ベトナム戦争です。太平洋戦争から帰った父親が児童虐待やDVをした生々しい話を私は聞いています。戦争体験の中で受けた精神的な傷は自傷他害、すなわち、自殺、うつ、児童虐待、DVを生み出していく温床になるということは、容易に想像できる話です。戦争体験の中で受けた精神的な傷は、その後、今度は自らの生命を絶ったり加害者として児童虐待をする父親、DVをする夫とならざるを得なくなっていくのです。このような繰り返しをストップさせるためにも、日本国憲法、集団的自衛権について、真剣に考えていかなければならないと考えています。

2016年7月

特定非営利活動法人
日本子どもソーシャルワーク協会
理事長 寺出壽美子

理事長 講演情報

当協会の理事長は、皆様からのご依頼を受けての講演・研修活動も行っております。 講師のご依頼は「講師依頼」ボタンをクリックして表示される画面を印刷し、必要事項をご記入の上、当協会までご連絡ください。

理事長講演とは別に、協会ではさまざまな講座やシンポジウムなども開催しています。詳しくは、講座・シンポジウムをご覧ください。

理事長

理事長 寺出 壽美子
プロフィール

  • ソーシャルワーカー NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会理事長
  • 日本子ども虐待防止学会会員
  • 東京都子供・若者支援協議会代表者会議委員
  • 東京都次世代育成支援行動計画懇談会委員
  • 豊島区青少年問題協議会委員
  • 前東邦大学薬学部非常勤講師
  • 前児童養護施設施設長
  • 元府中市と新宿区の子ども家庭支援センタースーパーバイザー

1970年、慶應義塾大学文学部社会心理教育学科卒業。
高校の教員、子どもの本屋店長、不登校児童も含めた学習塾代表等を歴任。
虐待、いじめ、不登校・ひきこもり、家庭内暴力、 薬物、少年事件、嗜癖、摂食障がいなど、多岐にわたる子どもとその親への面接相談や、支援に関わっている。不登校・ひきこもり等の子ども・若者への「ユースワーカー」派遣や子ども・親を支える「ケアワーカー」派遣、少年事件の少年への支援「ぴあすぽ」を担当。

<共著>
「家庭訪問型子育て支援ハンドブック」(明石書店)
「養育事典」(明石書店)(2014年7月発売)
「いじめ、いま親にできること」(木馬書館)

<調査研究>
「ひとり親家庭ホームヘルプサービス事業に関する支援状況の調査報告書」(2006)