児童精神科医高岡健の映画評論

児童精神科医の高岡健さんが、子どもや家族を描いた映画について、語ります。

星になったときにだけもたらされる家族内和解:「Revolution+1」

Vol.79 更新:2023年1月23日

▼この映画に対する国会議員からの批判があり、ひいては抗議メールや手紙のため上映を中止した劇場までが現れたという。「Revolution+1」(足立政生監督)のことだ。だが、はっきりと言っておくが、どのような映画作品であっても、それが一市井人を誹謗中傷するものでない限り、いかなる弾圧も許されるべきではない。政治であれ行政であれ任意団体であれ、集団と個が対立した時には無条件に個(今回の場合は映画表現)が擁護されねばならない。

▼「Revolution+1」は、安倍元首相銃撃殺害事件を基にした実録映画だ。事件から3か月弱で安倍の国葬に合わせて特別版が上映され、5か月で完全版が上映されたのだから、驚異的なスピードというしかない。若松組以来の伝統なのだろうが、手慣れたものだ。

▼山上徹也ならぬ川上哲也(タモト清嵐)の父は、京大卒の技術者だった。父の学生時代の趣味は麻雀で、テレビではテルアビブ空港乱射事件の日本赤軍・岡本公三が「オリオン座の星になる」と語っていた。その父は自殺し、兄も脳手術のため失明後に自殺。母は統一教会(世界平和統一家庭連合)へ入信して多額の献金を行った。川上は自殺未遂後、入院先で宗教二世の女性の幻に誘われる。また、川上が手製銃を製作するアパートの隣室には、宗教二世とよく似た左翼二世の女性がいた。それにしても自分はどんな「星」になれるのか――。

▼映画には、家族関係についての解釈も嵌め込まれている。川上は、「一緒に歩くなんて久しぶりね」と語る母の幻に対して、「俺、母さんと歩いたことなんかないよ、兄さんと間違えているんじゃないかな」と返している。また、亡き兄の幻には、「母さんの愛を俺たちから奪ったんだよ、兄さん」と話しかける。さらに、妹を事件直前に呼び出したが、会話は交わらないままだった。しかし、「星」になったなら、兄とも母とも妹とも解りあえる――。

▼以上の解釈は、実際の事件について、私などが考えてきたことがらと一致する。事件の本質は、第一に統一教会の宗教的共同性が実際の家族を侵食し破壊したことへの反撃だった。それだけではない。統一教会は、家庭を破壊しながら「家庭の価値」を喧伝している団体だが、同じく統一教会と口を揃え「家庭の価値」をスローガンにしていたのが安倍晋三だった。その意味で、事件は、第二に安倍に対する反撃でもある必要があった。

▼映画では、「テロじゃない、個人的恨みだ」と川上が語るシーンがある。しかし、彼の行動は、宗教的共同幻想を体現する統一教会と、政治的共同幻想を体現する安倍を標的とし、自らの死と引き換えになされたテロルにほかならない。だから、このときに、(統一教会の韓鶴子や)安倍は、川上にとっては生身の人間ではなくなる。同時に、事件後の川上も生身の人間ではなくなり「星」になるしかない。「星」になったとき(つまり共同性の神話になったとき)にしか、家族内の和解はもたらされない。これこそがほんとうの悲劇だといいうる。