児童精神科医高岡健の映画評論

児童精神科医の高岡健さんが、子どもや家族を描いた映画について、語ります。

〈青春〉&〈純愛〉のR15+作品:「愛なのに」

Vol.71 更新:2022年3月3日

▼城定秀夫と今泉力哉が監督と脚本を交換(というよりも交歓がふさわしいか)する企画が始まった。L/R15と呼ぶらしい。そのうちの一つが「愛なのに」(監督=城定、脚本=今泉)だ。封切の日に観にいったが、オミクロン株の蔓延が未だ収まりきらぬせいか、全部で10人ちょっとの観客数だった。それでも、ざっと見渡したところ、観客の男女比と年齢比に偏りがないのには、少しだけ驚いた。

▼私の勝手な思い込みによる限り、一連の城定作品を一言で表すなら、一般映画の場合は〈青春〉、ピンク映画の場合は〈純愛〉になるだろう。その意味では、今回の作品は、〈青春〉&〈純愛〉のR15+作品ということになる。

▼古本屋を営む多田浩司(瀬戸康史)の店に客として通う女子高生=矢野岬(河合優実)は、ある日、一冊の本を万引きして逃げる。(何の本か、よく見えなかったが、後で確認すると夢野久作『少女地獄』らしい。ついでに言えば、店の書棚には村上龍『オールドテロリスト』や島尾敏雄『死の棘』が並んでいる。城定監督の好みかどうかはよく知らないが、どちらも私は好きな小説だ。)追いかけるうちに息切れした多田に対し、岬は自販機でペットボトルの水を買って手渡す。店に戻された岬は、始末書に名前を記入しながら、唐突に「多田さん、好きです、結婚してください」と告げる。

▼一方、かつて多田が片思いを寄せていた一花(さとうほなみ)は亮介(中島歩)と婚約中だが、亮介はウェディングプランナーの熊本(向里祐香)と浮気を重ねている。(熊本は、城定作品に登場する女性では定番の眼鏡をかけている。)一花は亮介のポケットからラブホのライターをみつけ追及する。一花は「私も、私を好きな人と寝てきていい?」と言い残し、多田をラブホへ誘いセックスをする。

▼後日、予約のために訪れた結婚式場の礼拝堂で、一花は神父を見かけ懺悔をする。神父から「御心(みこころ)のままになさって下さい」と言われた一花は、自分の考え通りにすればいいのだと勘違いして、多田の家へ行き再びセックスをする。そのあと「御心(みこころ)とは、お心とは違って、神の教え」だと多田に言われた一花は、「間違えた、まあいいか、私は神様を信じてないし」と苦笑する。一花を送っていったバス停で、「たまに会ってたまに寝たい」という一花に、多田は「結婚やめなよ」「一花の相手はそいつでも俺でもないよ」「俺は好きだからもうしないよ」と答える――。

▼ソフトなセックスシーンの反復とコミカルなエピソードの反復。それらのあいだに挟み込まれた多田の振る舞いは、岬からの大量のラブレターを保存し、また岬の両親から淫行だと非難され突き出された警察署で「プライバシーでしょ、それは」と供述を拒否する姿に象徴されるように、〈青春〉と〈純愛〉を架橋する役回りにふさわしい。そして、何よりも岬を演じる河合が、『由宇子の天秤』のときとはまた違った輝きを見せている。