児童精神科医高岡健の映画評論

児童精神科医の高岡健さんが、子どもや家族を描いた映画について、語ります。

現在でも成り立つ労組映画:「パレードへようこそ」

Vol.12 更新:2015年6月24日

▼ケン・ローチ監督作品は別格として、近年のイギリス映画には、反権力=失業コメディとでもいうべき水脈が、確立されたといっていいと思う。もちろん、水脈とは、「フル・モンティ」「ブラス!」といった、反サッチャー主義の作品群だ。そこに、「パレードへようこそ」(マシュー・ウォーチャス監督)が加わった。

▼冒頭に、リパブリック賛歌のメロディで「Solidarity Forever(団結は永遠に)」が流れる。途中では、伝統の大組合旗について語られるシーンが少なくとも二度あり、終盤になると、「Workers of the World Unite for Peace and Socialism(全世界の労働者は平和と社会主義のために団結せよ)」と書かれた緑の旗が登場する。これだけなら、旧い労組映画に過ぎない。

▼ところが、同性愛者たちが炭坑労働者の組合を支持し、LGSM (Lesbians and Gays Support the Miners:坑夫を支援するレズビアンとゲイたち)という団体を結成して、カンパを集め始めた。同性愛者も炭坑労働者も、サッチャーによる新自由主義政権の下で、ともに抑圧されているという理由からだ。ひょんなきっかけから、LGSMは、ウェールズの炭鉱労働者の組合と結びつくことができた。もちろん、武骨な炭坑労働者たちが、ただちに同性愛者たちの支援を受け入れたわけではなかった。そこをコミカルに描きながら、最後はレズビアンとゲイの集会に労組が大動員をかけて支援するところにまで至る。

▼実話に基づくというこのストーリーは、「Solidarity Forever」の現在の姿を、暗示しているようだ。労組運動は、第三次産業が優位になった先進資本主義国では、もはや無条件に成り立つものではなくなった。日本でも組織率は低下し、基幹産業が第二次産業だった時代のように、ストライキで闘うことすら容易ではなくなっている。一方で、進行する格差社会は、組織労働者と未組織労働者とのあいだに、対立と確執を持ち込もうとする。

▼こうなると、労組は、蓄えた闘争資金や新たに集めたカンパを、派遣村のような未組織労働者のための社会運動や、障害者・若者のためのNPOに注ぎ込むしかないのではないか。そして、手慣れた機動力を活かして、選挙などにではなく、社会的に排除された立場の人々が打とうとする集会に大動員をかける以外には、社会的連帯の方向性を想定することができないのではないか。逆に言うなら、資金と動員を社会的弱者へ注入してはじめて、労組運動の復活がありうるということだ。

▼ところで、この映画には、もう一つのストーリーが嵌めこまれている。調理学校生だったジョー(ジョージ・マッケイ)が、両親の庇護から半ば暴力的に抜け出て、ゲイとして自立していこうとする過程だ。この映画の原題「Pride」は、労働者たちと同性愛者たちの誇りであるとともに、少年からゲイの青年へと自覚的に脱皮しようするジョーの誇りをも意味している。