子ども・若者支援に思うことコラム

『今、苦しんでいる子どもの回復に求められる行政の取り組みとは』
〜昨年度の全国調査(インタビュー調査)から見えてきた課題〜

更新:2024年7月17日 寺出壽美子

 前回の6月のコラム『今、子どもたちの生存が、危ない』を書いてから1か月がたち、夏休みに入る直前です。親や大人に気づかれない中で、死にたいと思っている・自傷行為を繰り返している小・中学生が急増している事態(2023年国立成育医療センターの全国調査)に、全国自治体とこども家庭庁は緊急対応が求められているのではないでしょうか。
 不安定な母親が増加している中では不安と孤立状態の子どもがSNSを通して、トー横に集まるのは当然の帰結です。このような状況で生活している子どもたち、即ち心理的虐待の渦中にいる子どもたちは児童虐待全体の6割(129,484件)にも上っています。心理的虐待は見えにくいので、心理的虐待件数にカウントされていない子どもたちは更に多いと思います。
 日本の子どもたちは身体の健康度は世界で1位であるのに、精神の健康度は最下位から2番目(2020年ユニセフ調査38か国の中で)と言う結果が出ています。大人が思っているほど毎日が幸せだと感じている子どもは多くないという実態が見えてきます。
 一方で、2021年度の東京都養育支援訪問事業と昨年度の全国調査の2回のインタビュー調査の結果から、週1回子どもを訪問して一緒に遊ぶ・片付ける・食事作り等を数年間継続した結果、生きづらさに苦しんでいた子どもがすっかり元気を取り戻して高校通学を開始したというデータを得ることが出来ています。子どもを受けとめる支援員が継続して関わることで、子どものこころの回復が獲得出来ていたというインタビュー調査の結果は貴重です。
 20年くらい前には訪問時に子どもと外遊びは自由でした。現在では事故防止の観点から外遊びを禁止している自治体が多くなっていますが、子どもは外遊びの中で動き回り、そのエネルギーの放出はすさまじく、今、考えると激しい遊びを通して子どもは内部に溜め込んでいた怒りを放出していたのだと気づきました。
 不安と孤立状態の早期の段階で支援員が週1回訪問して子どもと遊ぶ・喋るを繰り返せば、短期間のうちに子どものこころの回復を獲得出来るのではないでしょうか。
 不安定な母親支援は別事業に切り分けて、子育て世帯訪問支援事業の名称を子どもへの訪問(回復支援)事業と改め、今迄は乳幼児中心の支援だった事業を規定通り18歳未満までを対象として、大人になってからの人生に禍根を残さないように、子ども時代に背負った傷は子ども時代のうちに回復させて、大人になってからの人生を穏やかに過ごせるようにしていけたらと思います。
 神戸の少年事件・秋葉原無差別殺傷事件・京都アニメーション放火殺人事件等、その一つひとつの事件においても、子ども時代に親とは別の誰かと出会えて、受けとめてくれていたらとの思いを強くします。
 このような大きな事件を引き起こさないまでも、生涯をアルコール・薬物・ギャンブルに依存しなければ生きていけない人生に追い詰めないために、声に出せない辛さを抱えてしか毎日を生きられない全国の子どもたちには、子ども時代のうちに誰か受けとめてくれる大人と出会うことで、成人後の人生を保障出来たらとこころから願っています。2024年度からの新規事業 子育て世帯訪問支援事業の事業そのものの抜本的な見直しを通して、乳幼児と特定妊婦に加えて、今、心理的虐待を受けている子どもたちに焦点を当てた事業へと拡大していくことへの着手を求めます。