「育児・家事援助−養育支援訪問事業を数年間 継続する意味とは」 〜児童虐待の世代間連鎖を断つために〜
更新:2023年11月25日 寺出壽美子
協会立ち上げの2000年から23年間、益々子どもの状況は厳しさを増しており、G7の7か国の中で日本だけが若者の死因の1位が自殺という事態が続いています。 生きていることの辛さから、「勉強も人間関係も部活も全部頑張ってきた。もう終わりにしたい」「学校が嫌い。1年耐えたから死んでもいいと思う」「生まれて来なければよかった」「さみしいがいっぱいたまってしまった」、という子どもからの電話やSNSへの投稿が増加しています。以前は中学生の不登校が多かったのに、今は小学生の不登校が激増しています。 ひとり親家庭の経済的貧困度が上昇している中、ふたり親も含めて親子の関係性の貧困度が親の気づかない中でさらに増加しているために、生きていくエネルギーが枯渇して死に急ぐ子どもや親に隠れて自傷行為をする子どもが激増しています。心理的虐待下におかれた子どもは親から精神的に追い詰められても家庭の中に放置されたまま生活を続けています。 この不適切養育下で生活している子どもたちへの厚生労働省の取組が養育支援訪問事業の育児・家事援助です。訪問支援者が保育園送迎や調理等で子どもと関わり、保育園に通えるようになる・食事がとれるようになるというのは最低限の目標です。けれども、この第一の目標が達成されただけでは実は不十分で、訪問支援者が育児・家事援助を通して子どもとの密な関わりの中から育まれる安心感・精神的安定感を子どもの内部に徐々に根付かせていくことが最重要な目標です。安心・安定感を日々の営みの中で少しずつでも回復出来た子どもは、成人後も多少の紆余曲折があったとしても落ち着いた人生を歩むことが出来るでしょう。 けれども、親から安心をもらえず、他の誰からも手を差し伸べられなかった場合、孤独な若者は親から受けられなかった愛情を補うものとしてギャンブルや薬物等に依存しなければ生きていくことが出来なくなります。子ども時代に愛されずに生きてきた結果、孤独と不安を解消するために薬物から抜け出せなくなってしまうのですが、本人は親から愛されなかったからとは理解出来ずに、自分自身の性格の弱さ故に薬物から抜け出せないのだと思っています。 もし、訪問支援者が子どもの精神的回復まで関わり続けてくれた場合は、その子どもは依存とは無縁の人生を歩むことができるでしょう。養育支援訪問事業の育児・家事援助はそれほど子どもが生きていく上で根源的な事業です。この事業を20年間、実施してきた協会は子どもの精神的回復を間近でみることが出来ています。しかし、この事業の重要性は現場で体験しないと理解されづらく、子どもの精神的な回復まで関り続けて行かないと成人後の人生にまで影響を及ぼすとまでは多くの場合気づけていないため、子どもの日々の不足(保育園通園・食事の摂取)を補充すれば目的達成と考えて短期間で終了している自治体が多いことが課題であると考えています。 一昨年には東京都の全自治体対象に、前大正大学教授の西郷泰之先生と「東京都における養育支援訪問事業の改善課題に関する調査研究」〜児童虐待からの回復に向けた支援の方向性に焦点をあてて〜の調査を実施しました。子どもの精神的回復まで関わるには長期の時間を必要とすると英国の調査報告にありますが、一昨年の東京都の調査結果では、長期に積極的に取り組んでいる自治体があまりに少なかったこと、またこの事業実施に不可欠な訪問支援者の不足が半数の自治体で問題となっていました。 この養育支援訪問事業の育児・家事援助に関しては‘24年からは子育て世帯訪問支援事業の中で実施されることとなり、こども家庭庁では具体的な検討が現在進められています。今年度、新たに西郷先生と全国自治体を対象に、「子育て世帯訪問支援事業(新規事業)の今後の制度設計・改善のための研究」〜先行事業の養育支援訪問事業の課題抽出を通して〜の調査を開始しています。今までも決して積極的だったとは言えない養育支援訪問事業の育児・家事援助の質と量をこれ以上落とすことのないように、こども家庭庁には昨年度から緊急要望書を提出しています。来年3月の調査研究報告会ではこども家庭庁や関係機関の方々と話し合いの場をもち、よりよい方向での制度の改善と実施につなげていきたいと思っています。