選挙中に凶弾に倒れた元総理の事件等から見えてくること
更新:2022年10月17日 寺出壽美子
7月8日、凶弾に倒れた元総理の事件は世界中に波紋を広げています。解明はこれからですが、昨年12月の大阪クリニック放火事件、各地の電車内で起きている事件等々の背景に、現在日本の若者や成人が抱えている問題が浮かび上がって来ます。個々の直近の問題だけを捉えるのではなく長いスパンでの人生を見ていきますと、その背景にその個人の子ども時代の影響が色濃く横たわっています。特に子ども時代に不適切な養育下で育ち、その子どもの精神的回復が放置されている場合、そのつけが成人してから表出して来ます。若者の自殺者数の多さ、薬物嗜癖・ギャンブル嗜癖だけでなく、生きていくことへの絶望から無差別殺人に至るまで、今日、目に見えて増加しているその問題は大人と大人社会にその責任があると考えています。 生きていくことの困難さや辛さを様々な表現で訴える若者、例えば自傷行為や薬物吸引・逸脱した性行為を繰り返す若者と話してみると、彼らの抱えている苦しさの背景には共通して子ども時代の問題が浮上して来ます。単に背景をコロナだけ、或いは思春期以降の本人の問題や資質にだけ求めるとしたら見誤ります。 昨年度に東京都全自治体で調査した「養育支援訪問事業の育児・家事援助」は不適切な養育下の子どもの精神的回復をはかるための事業であるのですが、調査の結果からは子どもたちの殆どは不十分な支援、若しくは支援を全く受けていないことが判明致しました。 一方ほんの僅かな事例でしたが、不適切な養育下に置かれた子どもに親とは別の誰か訪問支援者が一定期間関わり続けると、子どもは確実に精神的回復を得られていることがインタビュ−調査の結果、明らかになりました。 以上の結果から、幼少期から親が受けとめてくれず、不安と孤独の中に放置されていた子どもは、生きていく自尊心やエネルギーを枯渇したまま思春期を迎えています。このような大量の子どもたちは社会が引き受けて育てていくしかないと考えます。その子どもたちの親も、既にその親(祖母)から受けとめられずに寂しい子ども時代を過ごしてきたために、我が子を受けとめることが出来ない訳ですから…。 国・厚労省は、不安と孤独の中にいる子どもに対して、親ではない誰か訪問支援者が家庭に一定期間入ることで、失われた精神的不安感を子ども時代のうちに回復させていくこの重要な事業に、是非本腰を入れてほしいと願っています。 そうでなければ、日本の子どもの未来はないと思っています。 「東京都における養育支援訪問事業の改善課題に関する調査研究」は、こちら