子ども・若者支援に思うことコラム

子ども・若者支援とソーシャルワークの3つの活動

更新:2019年12月02日 寺出壽美子

 昨年3月目黒で5歳女児が、今年1月野田市の小4女児が、いずれも児童虐待で亡くなりました。昨年の児童虐待通告件数は、15万4千件、いじめの認知件数は41万件、1昨年の20歳未満の自殺者数は567人と、社会で生きている子どもたちの状況は増々深刻化しています。
 2000年に立ち上げた日本子どもソーシャルワーク協会は、2003年NPO法人を取得して、社会のさまざまなひずみの影響により児童虐待・いじめ・不登校・ひきこもり・少年事件等の状況下に追い詰められた子ども・若者たちの現状を打開し、共に歩んで行く存在として、日々ソーシャルワーク活動を実践しています。
 子どもたちは、自ら親や家族を選ぶことが出来ないという意味で社会の中での弱者であり、多くの場合、児童虐待を受けていても自ら虐待から逃れることも出来ません。また、いじめを受けた子どもたちは、児童虐待を受けた子どもたちと同様に複雑性PTSDの症状を現出します。そして、児童虐待といじめと不登校・ひきこもりと少年事件とは通底していますので、少年事件の背景を丁寧に見てみると、その背景に発達障碍や児童虐待・いじめの被害者であることが多く、少年自ら事件をひとりで起こすことは出来ないことが見えてきます。また、不登校・ひきこもりに関しても、彼らは生きていく上での根底がさまざまな要因によって揺らいでしまったために、こもらざるを得なくなったと考えられます。このような目には見えないさまざまな背景が隠れていますので、子ども・若者支援と言っても単純ではなく、ソーシャルワーカーに求められることは、直ぐ目の前に起きている状態だけに注目するのではなく、俯瞰的な視座から対象を眺め考察し、多角的に方向性を検討した上で、子ども・若者と共に歩んで行くことが大切となります。
 日本子どもソーシャルワーク協会の現在の主要な活動は、3種類あります。(1)自治体が実施している養育支援訪問と協会独自の活動を合わせたぽらん事業 (2)不登校・ひきこもり・発達障碍の子ども・若者へのユースワーカー訪問事業 (3)少年事件を起こした少年の立ち直り支援事業 です。

(1)児童虐待予防として、2003年から開始している養育支援訪問事業は、世田谷区や目黒区から委託を受けて実施しています。世田谷区や目黒区の子ども家庭支援センターが訪問支援を必要と判断した時に、その家庭の子どもへの支援という観点から、育児・家事(調理・洗濯・掃除等)・保育園送迎支援を週1〜3回実施する事業です。昨年香川県から目黒区に転居した5歳女児、そして今年1月野田市の小4女児は共に父親による虐待で亡くなりました。もし仮にこの養育支援訪問事業が定期的に実施されていたなら、どちらの事件も起こらなかったのではないかと思います。という訳で、実はまだ全国に浸透はしてはいませんが、養育支援訪問事業の「その他の必要な援助」(育児・家事・保育園送迎支援)は子どもの日々の安定にこの上もなく重要な事業だと考えています。

  (2)不登校・ひきこもり、或いは発達障碍の子ども・若者の家庭を訪問するユースワーカー訪問事業が協会の2番目の活動です。この事業は、東京都の若者社会参加応援事業の登録団体としても実施していますが、当協会の特色は、親御さんだけが家庭訪問を希望したとしてもユースワーカーを家庭に派遣は致しません。不登校・ひきこもり・発達障碍のご本人自身が家庭訪問を希望していることを条件に訪問を開始致します。その前に重要なことは、親御さんご自身への面接を協会は重視しています。ひきこもっているご本人だけが問題であると親御さんが考えている間は、ひきこもりの期間が長引くだけでなく深刻化して行きます。けれども、親御さん自身がもっているひきこもり観が変化して行きますと、ひきこもっているご本人の様子も変化して行きます。従って、協会のユースワーカーの訪問事業は、単にひきこもっているご本人を社会に引き戻して仕事に繋げようとしたり、或いは逆に、ご本人に対して親は何もせずに放っておけばよいという問題としては捉えておらず、生きて行く上での価値観を親御さんも振り返る機会となる重要な場であり、親子関係の修復も含めて何よりこもっているご本人の安定とご本人の自信を取り戻す重要な活動であると考えています。

(3)少年事件の少年の立ち直り支援が協会の3番目の活動です。最初にも書きましたが、少年は自らひとりで事件を引き起こすことは出来ません。それまでの生い立ちの中でどれだけ親に十分受けとめられて育ってきたかということが子どもの自立にとって最重要なことです。少年が逮捕された時に、弁護士か親御さんから立ち直り支援の依頼が入ると、協会では留置所或いは鑑別所に面会に行き、起こした事件、親子関係、仲間関係、学校や職場の問題、今後の進路等について少年と何回も話し合い、少年自身の気持ちを尊重しながら、二度と事件を繰り返さない為の道を一緒に模索して行きます。その内容を意見書として家庭裁判所に提出して、審判時に出廷が許可されれば、少年への立ち直り支援についてソーシャルワーカーの立場から支援内容述べさせてもらいます。保護観察で自宅に戻って来る場合には、保護観察終了まで家庭、学校、職場、交友関係等の相談に関わり続けて行きます。少年院の場合には、手紙や面会を通して、親子関係の修復やその後の進路について相談に乗って行きます。少年院退院後は、保護観察終了まで同じく関わり続けて行きます。子ども時代に児童虐待の被害体験が強いと親子関係の修復が進まず、その結果、再犯率が高くなってしまいます。再犯率を低下させるためにも、行政は今以上に児童虐待から子どもを守る施策に真剣に取り組んで行かなければならないと思いますし、既に現在は待ったなしの状況にまで深刻化しているのではないかと考えています。最近、成人による障害致死事件が続いて起きていますが、事件を起こした彼らは子ども時代に児童虐待下で生活を余儀なくされて来たと聞いています。児童虐待が子どもに与える影響は、想像以上にその人間の心身を蝕んでしまうからです。全ての子どもが生まれた家庭の中で安全・安心・安定した環境で生活出来る訳ではありません。親が子どもの安全・安心・安定を保障出来ない時には、社会が子どもを育てて行くことの認識をはっきりもっておかなければならないでしょう。それも、子どもは特定の誰かに受けとめられなくては安心・安定を獲得出来ませんので、施設であればなるべく少数のグループホームに、そして出来れば養育里親や養子縁組等の下で受けとめられて育って行くことが子どもの精神的な安定に繋がり、ひいてはさまざまな少年事件を引き起こさないで済む最短の道ではないかと考えています。
 
 以上、協会で実施している3つの活動についてご紹介致しました。


※上記は、「特集ソーシャルワーカーと地域活動 子ども・若者支援とソーシャルワーク活動−日本子どもソーシャルワーク協会の19年を振り返って」(「地域リハビリテーション9月号」第14巻第4号、三輪書店、2019年9月15日発行)を一部加筆修正して掲載しています。