「少年法 18歳年齢引き下げに反対」の要望書を提出
更新:2019年07月09日 寺出壽美子
2019年6月13日、私共の日本子どもソーシャルワーク協会を含む15団体により、少年法適用年齢の引き下げに反対する旨の要望書を法務大臣・法制審議会少年法・刑事法部会長等宛に提出致しました。
以下に要望書の全文を掲載致します。
なお、弁護士ドットコムの園田さんより、当日の記者会見の内容を記事にまとめてくださっていますので、併せてご覧ください。
「少年だから甘くしよう」は誤解 少年法、年齢引き下げに反対…15団体が意見書(弁護士ドットコムニュース)
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2019年6月13日
法務大臣 山下 貴司 殿
法制審議会 法制審議会 会長 井上 正仁 殿
法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 部会長 佐伯 仁志 殿
衆参両院法務委員会理事・委員各位
自由民主党 総裁 安倍 晋三 殿
立憲民主党 代表 枝野 幸男 殿
国民民主党 代表 玉木 雄一郎 殿
公明党 代表 山口 那津男 殿
日本共産党 幹部会委員長 志位 和夫 殿
日本維新の会 代表 松井 一郎 殿
希望の党 代表 中山 成彬 殿
社会民主党 党首 又市 征治 殿
要 望 書
私たちは少年法適用年齢の引き下げに反対です
有効に機能している現行少年法の維持を強く要望します
少年法は日本社会で大変有効に機能してきた司法制度です。民法の成年年齢に合わせるのがわかりやすいといった単純な理由で少年法の適用年齢を引き下げることになれば、今後の日本社会に大きな禍根を残すことになると私たちは考えます。
少年法の最大の特色は、非行の背景まで含めた丁寧な調査をし、背景要因の是正にもはたらきかけ、家庭裁判所での教育的措置から少年院等での矯正教育まで、改善更生に向けた教育を施す制度だということです。非行の背景にしばしば存在する児童虐待や発達障がい等の問題に対しても、家庭裁判所による養育環境のアセスメントや障がいの有無の判断によって、適切な支援が行われてきた経緯があります。多くの少年たちを更生させて社会に送り出している現行のシステムは、再犯率の低さからも、有効に機能していることは明白です。これは、少年たちの人生のためであることはもちろん、新たな加害者、被害者の発生を防ぐことで、社会全体の安心・安全につながり、国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の理念である「誰一人取り残さない」社会を目指す上で極めて重要な役割を果たしています。
少年事件が「増加している」、あるいは「凶悪化が進んでいる」と話題にされることがありますが、実際には、少年事件は少年人口の減少率を超えて減少し続けています。特に凶悪事件は目立って減少しています。また、少年法は少年を甘やかす制度なのではないかという認識も事実と異なります。成人の場合、犯罪の嫌疑があっても、軽微な事案等は起訴猶予となったり、仮に起訴されても罰金や執行猶予で終わることが多く、実刑になるケースは起訴された事件の1割程度です。一方、少年法は「全件送致主義」がとられているため、軽微な事件でも全て家庭裁判所に送致されて調査の対象となります。少年事件では、非行事実のみではなく、要保護性についても考慮した上で処分を決定するため、成人では実刑とならないような事件で少年院に送致されることもあります。また、少年事件でも事案によっては現行少年法の下で成人と同様の刑事事件となり、18、19歳が殺人などの重大な結果を引き起こした場合は死刑になることもあります。このように少年法は決して「少年だから甘くしよう」という法律ではありません。
現在、少年事件の約半数を18、19歳が占めています。適用年齢を18歳未満に引き下げると、この少年たちはそっくり、少年法の対象から外れ、成人として刑事事件の手続に移されることになります。軽微な事件なら起訴猶予や罰金刑で終了となり、自身や社会についての十分な教育機会を与えられず、再犯を繰り返す危惧が高まります。
このように、少年法適用年齢を引き下げる合理性、必要性はどこにも見出すことができません。
法制審議会少年法・刑事法部会では、適用年齢を18歳未満に引き下げた場合の懸念に対する刑事政策的措置として「若年者に対する新たな処分」を検討しています。資料によれば、新たな処分とは、軽微な罪を犯し訴追を必要としない18、19歳に対して家庭裁判所が調査、鑑別を行い、その結果次第で保護観察や施設収容処分を可能にするものとされています。18、19歳に少年法を適用しないとしながら、起訴を必要としない18、19歳に保護観察や施設収容処分を行うということは、成人に対する保安処分に他なりません。少年法の健全育成の理念から離れて行われる保安処分は恣意的に運用される懸念もあります。このような重大な問題をはらむ「若年者に対する新たな処分」の導入は、決して認めることができません。
法律の目的や社会に与える影響を無視して、単に先行した民法の成年年齢に後から合わせ、それにより懸念される悪影響を不自然ともいえる「新たな処分」の創設で補うというやり方にはまったく説得力がありません。飲酒や喫煙、公営ギャンブルについては、青少年保護や非行防止の観点から「20歳」が維持されていることも指摘しておきます。
私たちはそれぞれ立場の違いを超えて、有効に機能している現行少年法の維持を望むという点で一致しています。少年たちの成長発達権をできる限り保障すること、社会からできる限り非行・犯罪をなくすことを深く熟慮され、少年法適用年齢引き下げの法改正をしないよう強く要望いたします。
以 上
【団体名50音順】子どもシェルター全国ネットワーク会議、主婦連合会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、全国青少年教化協議会、全国地域婦人団体連絡協議会、全司法労働組合、全日本教職員組合、東京都地域婦人団体連盟、日本子どもソーシャルワーク協会、日本子どもを守る会、日本児童青年精神医学会、日本弁護士連合会、被害者と司法を考える会、非行克服支援センター、「非行」と向き合う親たちの会
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